top of page

 -3-
 

 あの後三人で今後の各々の方針を決めた後、会議は終了、

 めぼしい情報が出次第共有する事を条件に明日は各々の方法に任せて行動する事になった。

 会議が終わった際に紫の部屋から出てきた京子が何か物言いたげな顔で俺達を見ていたが、

 藪蛇な気がしたので俺は触れるのを止めた。

 部屋に待ち構えられている紫はそうはいかない様で、

 あの後一時間ほど隣の部屋で質問攻めにあっていたらしい。

 今朝朝食の支度をしている時に起きてきた紫はその影響が少し寝不足の様だった。

 そして今、自分は何をしているのかと言うと、再び学校をさぼり朝から町中に繰り出している。

 周囲は日本とは思えない景観が広がっており全く違う国に来たのではないかと錯覚する程だ。

 この町には数々の観光地があるがここはその外観と特徴から“中華街”と呼ばれている。
 中華を堪能したい気持ちを抑えながら、

 この町並みの中でも一際異質な空気を出しているこの店

 【万人堂】と呼ばれる雑貨店の中へと足を踏み入れる。

 

 窓ガラスが高い所にあり中の様子が見えないという雑貨店にとってはかなり致命的な構造、

 外に看板も置いておらず、一般人がこの建物の前を通った所で良くて漢方専門店に見間違える

 外見をしている為、少なくとも雑貨店とは思わないだろう。
 

 寧ろ、雑貨店と言われてからの方が信用できないかもしれない。

 『カランカラン……』

 木造の両開きの扉を開き中に侵入する。

 扉にはオープンともクローズとも書いていなかった為、侵入と言った方がこの際は適任だろう。

 まぁ声をかけたりドアをノックしたとしてもこの店の店主の耳には届く事は無いのだから対して変わらんだろう。


 中に入るや否や、商品には一切目をくれず一目散に建物の地下に向かって進んでいく。
 レジの裏にある螺旋階段を踏み外さない様にゆっくりと下っていくとようやくその人物は姿を表した。

 紫色のみつあみの髪の毛に中華風の礼装、

 肌は血が通っているのか心配になる程に青白くまるで死人の様だ。

 そしておでこには1枚の【呪符】が張り付けられていた。
 

 そう、この少女こそがこの【魔道雑貨店“万人堂”】の現店主“九九”その人なのである。

 

「邪魔してますね」
「な、ななななんであなた勝手に入ってきているんですか!!」
「扉が開けっ放しがったから、ノックしてもどうせ出ないから、外で待っている時間が無駄だから。どうせ徹夜で研究でもしているのかと思ったのでいっそ入ってしまった方が早いかと思いましたので。寧ろ感謝してください」
「な、何で僕が感謝しないといけないんですか、そもそも怒っているのは僕の方で……」
「あ、預かり物あったんでした。おじさんから九九君にって」

 

 大河から渡すように言われた封筒を差し出すと

 こちらをじっと睨みつけた後に奪う様にして封筒を取り、中身を確認し始める。
 

 封筒の中に入っていたのは厚めの書類と小分けにされた何枚かの封筒が入っていた。
 書類に目を通すや否やこちらをそのジト目で睨みつけ渋々小さな声で「……ご注文は?」と呟いた。 

 先程まで少々荒れていた彼女が此処まで仕事に従順になるとは、いったい何を渡したのだろうか。 

 弱みでも握られているのではないだろうか、と勘違いしそうだ。
 

「で、ななな何が欲しいのかな?」
「呪符を使い切ったから新しいのが欲しいですね」
「ついこの間補充したばかりじゃなかったでしたっけ?」
「だからこうして来てるんですよ。それに今回の相手は“鬼”ですからね、有るに越した事は無いです」
「………」
「どうしました?」
「ちょっと待ってて」

 

 彼女はそう言うと一人奥の方へと進んで行き、ガサガサと木箱を漁り出した。
 まるで某猫型のロボットの様にアレでも無いコレでも無いと次から次へと物を引っ張り出す。

 物が散らかり足場が無くなりかけた時『あ、あった!』と少し嬉しそうな声を出して彼女はこちらに戻って来た。


 依頼した呪符と共に差し出されたのは先程奥から引きずり出された骨董品の様な何かである。

 物自体は長方形の桐箱に入れられており、釘打ちすらされているのだから完全未開封なのは見て分かるのだが、桐箱自体がかなりの年季が入っており文字が潰れている為、中に何があるのか分からない。

 強いて言うのならばかなり長い長方形の桐箱に入っているので長物の様な気がするのだが……。
 

「コレは?」
「だ、代金は特別に安くしてあげるから、か、買っていって」
「勝手に持って着といて代金請求するんですね」
「あ、当たり前。かなりの業物…だから」
「……この国では銃刀法違反ってのがあってですね」
「ひ、百聞は一見につかず……」

 

 青龍刀や槍なども取り扱っているこの店でいくらこの話をしても無意味なのだが、

 取り扱っているのと自分で買い、扱うのは別の話になってくるのだが……そう問い詰めようとしたが、言う間もなく彼女はその桐箱を無理やりバールでこじ開けた。
 

「何だ…コレ?」


 桐箱の中に入れられていたのは一本の木刀だった。
 だが只の木刀では無い、刀と言うよりはどちらかと言うと剣に形状が近く、
柄の無いファルシオンの様な太さから、コレが刀と言うには少々難しい。しかし木なのにも関わらず刀身には刀独特の波紋が木目によってきれいに表現されている。かと思えば刀と言うにはあまりにも太く木刀と言うにはあまりにも薄い、さらに側面には木彫りで文字が刻まれている始末である。


「【儀礼剣】って呼ばれている“呪具”、みたいです。側面に書かれているのはもうわかっていると思うけど、呪符に刻まれている物と、ど…同系統の呪言が彫られている」
「コレじゃあ陰陽師以外には全く扱えないじゃないか」
「そ、そうなのです。しかも陰陽師の殆どは中遠距離から戦う人が多いのでこの道具、売れないの…です」
「詰り売れ残り品……」
「て、適材適所…といいますか、貴方ならうまく扱えるのでは……と」


 正直言うとかなり欲しい。
 今までホームセンターのバットを呪符で無理やり武器に扱っていた為、ちゃんとした近接武器を貰えるはかなりうれしい。

 この【儀礼剣】は本体に呪言が刻まれているし、木本体のマナも相当なものだ。

 そして何より元が木の為、自分の【五行 陰陽道】とはかなり相性が良い。
 自分の術は“火”“水”“木”“金”“土”の五条相生を元に5つの属性を組み合わせている。

 全てを文字にした時、どれが真ん中とは無いがこうして横にした時“木”は全ての中心にある。

 長物を使用する時これ程応用の効く物は無い。


 詰り結論から言うと喉から手が出るほど欲しい逸品だ、一品なのだが……。

 

(九九が“善意”でコレを引っ張り出したという点が一番の問題だ)

 

 普段ならこちらから依頼した物を探し、作業費と言っていくらかぼったくろうとして来る程の守銭奴である九九が、今回に関しては自ら動き、懸念点さえ伝えた上で俺に売ろうとしているのだ。

 何かあると思わない方がおかしい。

(若しくはそれほどの何かが先程の封筒に入っていたのか……)

 分からない。

 性格はオドオドしており普段は比較的にポンな九九だが、お金の時だけ敏感になるあの少女がこの対応をしているのだ。100%裏がある、有るのだが今の自分には全く分からない。

 紫に聞ければ一番良いのだが生憎今いるのは地下な為、勿論圏外。

 向こうからかけてくる場合なら何とかなるが紫が何も用が無いのにかけてくるとは思えない。

 それに仮に圏外でなくとも今は授業中、電話をかけてしまったら迷惑になる。

 いや、そもそも出ないかもしれない。

 

「ど、どう? あなたにとっては欲しくてたまらない…でしょ!?」
「そうですね、引き取ってあげてもいいですよ」
「あ、あくまで払わないっていうのね」
「そりゃ不良ですから。それにあなたが安くするとか言い出すのは不自然極まりない
初めから値段で交渉する気が一切無いのが見え見え、と言うかそう見せている様にしか見えないですよ」
「い、意外と鋭い……いいから貰っていって…もう呪符も只でいいから」

 

 儀礼剣と呪符をまとめて風呂敷に包むと俺の背中を押して地下から追い出そうとする。
 残念ながら対格差も筋力差も雲泥の差がある為、顔を真っ赤にしながら俺の背中を押してもビクともしない。現に必死に押しているが同じ地面を何度も何度も滑らせて一歩も動けていない。

 

「で、出てけ~……そしてそれ持って二度と来るな~」
 

 数十秒同じ事を繰り返すうちに息が荒くなり、等々『ぜぇはぁぜぇはぁ』と肩で呼吸する事になる。


「分かったよ、持って帰るからその前にこれについてちゃんと説明をしてくれ、持って帰ろうにも何か分からないと使いようが無い」
「はぁ…はぁ…い、いま言質取りましたからね、もう後戻りできませんからね」

 

 してやったりという顔をする九九だが、残念ながら先程から荒い息遣いしか聞こえてこない。
 

「で、何がいわくつきなの?」
「はぁ……そ、それ自体は正真正銘の“魔道具”に変わりは無いです。た、只一つ用いた素材が良くなかったみたいなのです。し、使用したのは樹齢数千年の泰樹の折れた枝一本、それを加工してこの形状にしたのだけど、その泰樹、実は固有の魔術を持っていたのです。【霊喰い】所謂マナを吸い取る魔術です。な、長年周囲の魔力を吸い続けた影響でこの能力に目覚めたようですが、その欠片でもあるこの【儀礼剣】にも同じ効果があって……」

 

(あぁ、なるほど、つまり)

「触れた対称の魔力を吸い取る魔術……」
「で、です。なので持って行ってくれたらゴミの処理にもなってた、助かるかなと。どうせあ、貴方には関係ないんだし丁度いいじゃない」
「お、お前…人を廃品回収の様に扱って……」

 

 半分呆れたように見つめると睨まれたと思ったのか、ビクリと肩を震わせ、涙目と震え声で『げ、言質……言質取った…さっき約束した…」と四方八方目を泳がせながら小さな声でつぶやく。


「……はぁ、まぁ欲しいとは思ってたし良いですよ。確かに俺には“関係の無い”事みたいですし……それで、“コレ”名前は何て言うんですか?」
「こ、これの名前はですね………」

 

Presents:​星屑コノハ

  • 黒のYouTubeアイコン
bottom of page