top of page

 -2-

「大将やってる?」

 行きつけの居酒屋に入る様な挨拶をしながら私達の前に現れたのは私の唯一の友人である“間宮夏織”だった。
 

 その登場で私の思考は一気に固まった。
 何で夏織が此処に? 後輩と何処かに行くって話じゃ? 只遊びに来ただけ? 夏織も“魔術師”? このタイミングで来るという事はもしかして……。様々な考えが頭に過りその先の答えを探す事を諦める。その先を考えるのを体が拒否しているのが分かる。徐々に血の気が引いて行き、いつも見ていた筈の友人の顔が知らない人の顔に見えてくる。
 負の連鎖が渦巻く中私を現実に引き戻したのは小さな師匠だった。

「大丈夫よ。瞳、あの人は違うわ」
 
 震える私の手をぎゅっと握りそう言った。
 気が付けば私は友人を前におびえていたのだ。
 普段と異なる反応を見せた私を見て夏織は少々困惑してマリアと私を交互に見た。暫く考えると、何かに納得したようでニヤリと笑いいつもの調子で、

 

「“お邪魔”だったみたいね」

 と言って立ち去ろうとした。
 

「ちょ、ちょっと待って!!」
 

 このまま別れてしまったら後で後悔するかもしれないと思ったのか、私は普段出さないような大きな声で夏織を引き留めていた。
 彼女はしばし驚いた顔をした後私の様に近寄り、突然私を抱きしめた。

 

「何があったか詳しくは分からないし、話したくない事、話せない事は話さなくていいわ。ただ忘れないで。私はいつでも瞳の味方よ。瞳がどんな選択を使用とも私が貴方の帰る日常になってあげるわ」

 

 私は涙をこらえながら彼女の腕の中に顔を埋めた。
 嬉しかった。それと同時に悲しかった。こんなに自分の事を思ってくれる友人を私は疑ってしまったのだ。そんな考えに至ってしまった事に後悔した。
 私は気づいていなかったのだ。自分は幸せ者なのだと。

 

「……ありがとう」
 

 夏織の腕から離れ恥ずかしさの余りに目を合わせる事が出来ずにそう呟いた。
 どの様な反応をしているのだろうかと気になり、顔を上げていくといつものいたずら好きの彼女の笑顔がそこにあった。

 

「さて、私はもう行こうかな」
「結局何しに来たの?」
「今朝の様子がおかしかったから、もしかしてもう同姓とか始めちゃってるのかなって思って様子を見に来たのよ。顔に高揚と不安が出ていたわ。貴方結構分かりやすいわよ」

 

 そんな馬鹿な、と言うか高揚は違う、違うから。確かに一緒に住んだらナニカあるかもとか思ったけど決してやましい意味では無く……って私は誰に言い訳しているんだろう…。
 

「顔に出てるわよ」
 

 慌てて顔を隠しつつ横目でマリアの様子を確認すると、彼女はじっと私の顔を覗き込んでいた。
 

「ち、違うからねっ!!」
「何が??」
「っっつ!……なんでもない!!」
  
 慌てふためく私を見て満足したのか、夏織は一言「冗談よ」と言って笑いだした。

 

「本当は人を連れて来たの。商店街でキョロキョロしてて何事かと思って話しかけたら、貴方を探しているって言ったから様子見のついでにね……あれ?」
 

 そう言いながら入り口を開け、外を確認した夏織だが二三度見渡した後に首をかしげて、「何かどっか行っちゃったみたい」といった。
 

 居場所だけ特定して姿を消した謎の存在にひやりと汗が垂れる。
 

「……どんな子だったの?」
「えっと……年齢は多分“マリア”ちゃんと同じくらいかな、背丈も丁度その位。ゴシック調の黒いヒラヒラのドレスを着ていてたかな…あ、あと生き物の入ってない鳥籠を持っていたかも」
「鳥籠?」
「そう、生き物の代わりにベルが入ってたかな」

 

 全身から血の気が引いて来るのが分かる。
 音を出す道具、現代と似つかわしくない服装、そして私を探していた人物。
 ここまで揃っていて頭に連想するのは只一つ、【獣使い】の名前のみだった。
 私の命を狙っていた敵対する“魔術師”の正体は年端も行かない一人の少女だと言う。

 

「瞳??」
「ううん、何でもない! きっとその子また遊びに来るわよ」
「………そう?」
「うん、ありがとね」

 

 私は少々突き放すように会話を進めた。相手に場所を知られてしまったのだ、それに夏織も相手に顔を見られた可能性が大いにある。もう遅いかもしれないが親しい関係を隠す為にも直ぐに家に帰すべきだろう。幸いまだそこまで遅い時間では無い。今なら無事に家に帰れる筈だ。一緒に居たら危険に巻き込んでしまうかもしれない、だから……。
 

「じゃあ、また明日ね、瞳。いつもの所で待ってるわよ」
「どうしたの?改まって?」
「いや…なんでもないわよ。“マリア”ちゃんもまたね」
「おねぇさんバイバイ!!」

 

 商店街の方へと進んで行く夏織の背中を見届けると私達は顔を見合わせる。
 昨晩の様な襲撃が再びあると思うと体の震えが止まらない。
 そこにあるのは常に隣り合わせの“死”のみだった。

 

「どうしたらいいのかな……」
 

 気が付けば不安が口から零れ落ちていた。
 相手は昨晩の“怪異”だけでは無いのだ。こちらと同じ知的生命体であり自分より遥か格上の実力者である“魔術師”が昨晩の様な“怪異”を引き連れ襲ってくるのだ。
 理不尽な暴力を知性で振りかざすその力の前に私は何もできない。
 目の前の一人の少女を頼る事しかできないのだ。

 

「私には……なにも…」
 

 自分の無力さと他人に任せる罪悪感に押し潰されそうになる。
 

「そんな事無いよ!」
「え!?」
「瞳は今のままでも充分役に立つわ!」
「マリアちゃん……‼」

 


『続いてのニュースです。昨晩○○市で発見された死体の身元ですが、××市に住まう……』
 

 背後の家電量販店のテレビから今晩のニュースの内容が流れているそんな中、私は人々が仕事を終え、徐々に帰路に就く光景を、コーヒーを飲みながら二人掛けのベンチに腰掛けながら眺めていた。スーツを着たサラリーマン、酒を雑貨屋の店主に漬物屋のおばさん、新しく出来た本屋の店員までも皆商店街を抜け駅の方へと向かっていった。
 そんな人々を観察するように眺めている私が今何をしているかと言うと、夏織の言っていた少女を探す……のではなく、その少女に見つけてもらう用に振舞っているのである。


「瞳にはうってつけの役目があるわ!」
 

 無邪気に笑うマリアがそう言って提案してきたのがこの囮作戦なのである。確かにこれならば今の何の力も無い私でも役目を生やす事が出来る。だがしかし、この状況を囮と言っていいのだろうか? どちらかと言えば大物を釣り上げる際の“蒔絵”にしか見えないのだが……。
 

 しかし、他にも方法も無く、コレを断ってしまえば本当にやる事も無いので甘んじて受け入れる事にした。
 何かあってもすぐに対処できるように近くにいると言っていたマリアは24時間営業のファーストフード店に座っており、現在バーガーからピクルスを抜く作業に必死になっているのが窓越しから見える。

 

 …何と言うか緊張感が一切ない。
 私に見られている事に気が付いた彼女はピクルスを抜いていた事がバレたくないのか慌ててハンバーガーにかぶりついた。
 そして満足気な表情をしたかと思うと、まだピクルスを抜き終えていなかった様で、苦虫を噛み潰したような悲惨な表情に姿を変えた。ハンバーガーを食べた事が無いと言っていたがどうやら舌はお子様のままらしい。慌てて飲み物を飲みほしこちらを見て何やら勝ち誇った顔をしている。
 こうしてみると只の幼い少女に見えるのだから不思議でならない。
 見た目に惑わされるなとは正に彼女の様な子の事を言うのだろう。
 いや、もう一人…コレから出会うであろう子も同じく見た目に惑わされてはいけないのだ……。


「おね~さん」
 

 マリアをぼ~っと眺めていると気が付けば私の前に見知らぬ人が立っていた。
 その数3名。恐らく大学生だろう男性が私に声を掛けてきたのだ。少しお酒が入っているのか初対面の私に対してとてもフランクに話しかけてきた。

 

「おね~さん一人?」
 

 この手の人達はいつもは夏織があしらってくれていたのだが今は私一人である。
 ベンチに腰かけている為、背後に逃げ道は無く、囲むように三人が行く手を阻む為逃げる事は出来そうに無い。頼みの綱もバーガーに夢中でこちらに気付いてすらいない様子だ。
 そんなにバーガーに夢中になって例の子が来た時は大丈夫なのかと不安になるがマリアが反応しないという事はこの3人は“魔術師”では無いのだろう。
 その確認が取れただけでも私にとっては僥倖だ。
 目の前のナンパより大きな恐怖とコレから対峙すると思ったら心が落ち着いてきた。

 

「あ、あの……人を待ってますので」
 

 断りを入れようとしたが男たちは嬉しそうに笑い話を続ける。
 

「こんな時間に待ち合わせ?」
「今日はもう来ないんじゃないかな」
「そんな事よりさ、一緒に飲みにいかない」

 

 等三者三葉の同じ言葉をかけてくる。
(あぁ、面倒な人に絡まれたな……マリアに居て場所を変えてもらおう)
 そう思いマリアの方に視線を送るとその異変に気付いた。
 マリアはバーガーから手を放し飲み物を飲みながら食い入る様にある一点を見つめていた。
 慌てて視線の先に目を向けると3人の男の背後にソレは立っていた。

 

「あ……」
 

 この場に分不相応なその格好、ゴシック調の漆黒のドレスを身に纏い燃え上がる様な赤い髪、そしてその手には西洋鈴の入った鳥籠が握られていた。
 

「もしかして、この子が待ち人?」
 

 男たちが私の視線に気が付いて少女を見つけてしまう。
 何も知らない彼らにとってこの少女はおかしな格好をした只の少女、若しくは姉の帰りが遅いのを心配して出てきた良い所のお嬢様の様にしか見えないだろう。
 誰も異常の怪物を意のままに操る本物の“怪物”だと誰が思うだろうか。

 

「ごめんね、おね~さん今からお兄さん達と大切な用事があるからちょっと借りるね」
「大丈夫、明日の朝までには返すから、先にお母さんの所に帰ってくれる?」

 

 など、少女をあしらう様に声を掛ける。

 しかしそれはこの少女にとって“最も愚かな行動”だった。

 

「………さん」
「ん??何かな?」

 

 男の一人がその言葉を聞き取れずに少女に聞き返す。
 いや、正確には“聞き返した”だった。
 彼が少女に声を掛けたその瞬快に私はその“音”を聞いてしまった。

 

 

【チリィィィン】

 正に瞬く間の出来事だった。瞬きをした瞬間に先程まで私に絡んできた3人の男の姿はどこにも無くなっていた。私の目に映るのは驚く程に静かに佇む赤髪の少女と、それを中心に伸びる一匹の黒い大蛇の様な何かだった。
 

「嘘……」
 

 真っ黒い体に人を丸のみ出来そうな巨大な首に鉄さえ噛み千切ってしまいそうな強靭な顎、そして獲物を逃がすまいと様々な方向を見渡す八つの眼を持つ黒色の化け物。そう、それは昨晩マリアが倒したハズのあの黒の化け物だった。そしてその化け物が一瞬の内に私の目の前にいた3人の男達を文字通り喰らっていったのだ。
 既に倒したハズのその化け物を再び目の当たりにした私は恐怖で動けないでいた。

 

 

【チリィィィン】

 

 

 再びあの“音”が鳴る。

 少女の周りを周回していたその黒い化け物は音が鳴ると明確な意思を持って私の方へと突き進んできた。
 そう纏うというのだろうか世界がゆっくり回っている様に見える。私を丸のみ出来るその巨大な顎が開かれ大地を抉りながらこちらへと突き進んで行く中、私と化け物の丁度真ん中に昨晩見た黒い球体が突如現れるのも良く見え……。

 

 

【やっぱりピクルスは嫌いよ】

 

 

 黒い小さな球体は昨晩と同じように突如膨張し、その姿を直系3m程の小さな太陽へと姿を変えた。以前より小さなサイズになっていたが威力は変わらず、寧ろ小さく留めたおかげか心なしか昨晩より熱を帯びている様に見られる。

 黒い化け物は赤き太陽に溶け込む様に再びその姿を無に帰した。

 太陽が消えると同時に私の前にその小さな“大魔術師”は姿を表した。
 普段は一切その様に感じられないが今のマリアの背中は何とも頼もしいモノだろうか。

 


 

「颯爽登場!! 魔法少女マリアここに推参!!」

 と極めポーズを決め、こちらを振り返りウィンクをしてきた。
 頬にケチャップを付けながら。
 前言撤回しよう。アレは紛れもなく正真正銘のマリアだ。
 私はそっと頬のケチャップを指さしマリアに伝える。
 必死に拭き取り、何事も無かったかのように鋭い眼光で相手を睨みつける。
 決してそのケチャップは彼女のせいでは無い。間違いなくマリアのせいなのだが……今は考えないでおこう。今は目の前の【獣使い】に集中しよう何せあの子は先程3人も……

 

「あ……燃やしちゃった」
 

 まだ胃袋の中にご遺体が有るかもしれないのに今先程塵も残さずに燃やし尽くしてしまった。
 

「大丈夫よ瞳。さっきモグモグされた人達ならちゃんと生きてるわ」
「え!?」
「【幻獣使い/獣使い】はたくさんの“怪異”を飼いならす為に強大な魔力の空間を持っているの。捉えたり食われた人達はその中にいるわ。何らかの供物にされる事はあるけれども直ぐに使われる事は無いわ。それに3人とも魔力殆ど無かったから小指の先ほどの価値も無いわ」

 

 3人とも丸のみに合った為、五体満足で帰ってくるとの事だが小指の先ほどの価値も無いと少女の毒舌に苦笑いが浮かぶ。

 

「……何で…助けたの」
 

 この少女は何を言っているのだろうか、まだ3人とも少女の手の内にあると言うのに。
 

「何でその女を助けたの……あなたも“魔術師”なのでしょ、なのに“人間”を…それも“魔力”を垂れ流す愚行な人間を2度も! どうして!!」

 

 静まり返った商店街に少女の怒号が響く。
 少女は涙を流しながら親の仇の様に私を睨みつける。
 だがこれではっきりわかった事が有る。
 私が直接この子に何かをした訳では無い。私と同じ境遇の“魔力”を持ち、魔力を知らない者、それとこの子の周りにいた“魔術師”では無い“人間”がこの幼き少女に何かをしたのだ。年端も行かない少女にこれ程の殺意を持たせる何かを。

 憎しみを向けられる私は愚か、問いかけられたマリアも何も言わない。顎に手を当て首を傾げる様にして何かを考えている。
 

「貴方の様な無造作に魔力を垂れ流す人がいるから、だから……」
 

 止まる事の無い涙を流しつつ憎しみが徐々に明確な殺意へと変貌して行く。
 

「理不尽はもう許さない。早く摘み取らないと……」

 

 肌に突き刺さる程の冷徹な殺意を放ちながら少女は再び鳥籠を揺らす。

 

 

【ゴ~ン……ゴ~ン……】

 

 

 その小さなベルから放たれた音雄は思えない程の重く低い鐘の音が鳴り響く。少女の足元に蠢く影が広がって行く。その影は彼女の感情に反応するようにアメーバ状に広がって行き徐々にその範囲を広げて行く。しかし、一番恐ろしいのは影そのものでは無くそこから這い上がるナニカだった。

 

「……何…あれ?」
 

 黒い影から出てきたのは黒い首輪をつけ、鋭い鉤爪、強靭な顎に燃えるような赤い瞳、に4枚の翼を持つ架空状の生物として有名な真っ黒なドラゴンの様なナニカだった。サイズは先程の大蛇程の大きさでは無いがそれでも人間を丸のみ出来そうな程の口を持っており、何より大蛇の様な化け物を遥かに上回る威圧感がある。
 先程マリアに聞かされた話を思い出す。
 “供物”いったいどれ程捧げればこれ程禍々しく成長するのだろうか、想像もつかないし聴きたくも無かった。その数を聞いたらもう元に戻れないと思ったからだ。

 4枚の翼を羽ばたかせマリアに向かって一直線に向かってゆく。
 

「さっさとそいつを蹴散らして“ジャバウォック”」

 少女の叫ぶ言葉に耳を疑った。
 いま彼女は確かにその化け物の事を“ジャバウォック”と言った。
 あの化け物の存在は私でも知っている、かの有名な童話に出てくる邪竜でもあり、その後あらゆる物語で違う形状、能力で語られるあの生物の事だ。本体の童話ならヴォーパルソードで首を切断されその命を絶っているが生憎そのような剣や武具などは持ち合わせていない。

 

「マリア……」

   ブラック・サン・ライズ

【全てを焼き尽くす黒き太陽】

 突き進む邪竜に対し先程と同じように黒い太陽を宙に出現させ、その姿を燃やし尽くそうとしたマリア。その攻撃はものの見事に奴を捉えた。
 

 しかし、化け物と火球が衝突する直前、その化け物はその鋭い鉤爪で火球を切り裂き、その姿を無に帰してしまった。そしてそのままマリアの元へつき進みその爪を振り下ろす。
 体が小さかったおかげかその爪は体を避ける様にして地面に叩きつけられた。

 

「瞳……私の魔法消されちゃった」
 

 戦闘中にもかかわらず今にも泣きそうな鼻声を出しながらこちらを振り向くマリア。
 今は泣くのを我慢して目の前の敵に集中してください。
 アイコンタクトで伝わったのか、マリアはわなわな震えながら再び邪竜へと向き直す。

 

「もう起りました! マリアぷんぷんです、おこです、激おこです!」
 

 頬袋をぱんぱんに膨らませて地団駄を踏むマリア。
 そんな言葉一体どこで覚えてきたのだろうか、とりあえず後でもうそれは死語だと教えておこう。そんな事を考えているとマリアはこちらを見て一言「きれいな物を見せてあげるね」と満面の笑みで言い邪竜に向かい直した。そして先程とは違う呪文を唱え始める。

 

『満天の空に輝けし星々よ』
(お、今回はちゃんとした演唱っぽいぞ)
『今だけちょこっと私に力を頂戴』
(あ、前言撤回。この前のマリアと同じだ)
『キラキラ宝石みたいに輝いて火花の様にキレイに咲いて』
(んんん?火花!?)
 
 演唱する為に動きを止めたマリアを見てジャバウォックが再び飛翔する。
 
『ここに咲かせよ地上の大輪!』
 
 その言葉と同時にマリアから【全てを焼き尽くす黑き太陽】とは比べ物にならない程強力な力を感じる。それをジャバウォックも感じ取ったのか、マリアの方へ向かいのを止め一目散に後退していった。
 

    スター・ゲイザー
【地表を流れる紅き星々】

 

 
 その言葉と同時にマリアの元から様々な色の炎弾が『ひゅるるるるる~』という音を放ちながら前方に向かって五月雨式に放たれた。着弾と同時に鮮やかな火花と爆発音を放つそれは止まる事を知らず次々と放たれる。音は可愛らしいのだが背後から見るに打ち上げ花火を真横にして連単射撃している様にしか見えない。正に現代兵器並みの火力を放っている。
 何よりも凄いのがこの魔術を使用したマリアがその威力に驚き尻持ちを突いて呆然としている事だ。挙句の果てに涙目になりながら私に助けを求める始末である。
 何か叫んでいるが爆音で耳がいかれ何と言っているか聞こえない。

 

(私、魔術からっきしで止め方分からないんだけど……)
 
 暫く立つと魔術の効果が切れたのか、爆音と火花が消え硝煙と火薬の匂いが周囲に残されていた。そしてそこには私達2人、そして煙の中に黒い大きな影が存在した。
 煙が徐々に晴れて行き、その影の正体があらわになる。
 そこにいたのは先程私達を襲ってきた【獣使い】の少女とボロボロになった”ジャバウォック”の姿があった。

 

『え……な、なんで…』
 
 一番困惑していたのは【獣使い】の少女だった。
 邪竜の体は今にも崩れそうな程にバラバラなのだが、少女を囲うその爪は傷一つついていないのだ。マリアの強力な魔術をかき消したように、邪竜の爪は魔術をかき消す力がある。そしてその能力をあの竜は自分では無く少女の為に使用した。
 【獣使い】だから? 命令されたから? 
 いや違う。あの時ジャバウォックは少女の命令より先にその力に気付き少女の元へと戻っていったのだ。そして少女の為に自らを守る最大の武器を使用したのだ。“まるで身を挺して我が子を守る様に”

 

(もしかして……)

 

 様々な考えが渦巻く中、突如に強烈な頭痛に襲われる。
 脳が、目が、頭が割れそうだ。
 視界が歪み、足が眩み、自分が今立っているかすら分からない程に。
 最早自分て立つ事が出来ずにその場に膝をついて崩れ落ちる。

 

(何かが……頭の中に入って…)
 

 コレは只の頭痛では無い。
 先程から頭痛と共に頭の中に何かが入ってくる。
 砂嵐の様に霞、その全容が全く見えないが“映像”の様なナニカ、そのナニカが私の頭を、脳を、感覚を掻きむしる様にして流れ込んでくる。
 断片的な映像ばかりで何のものか全く分からない。
 徐々に痛みが強力になるにつれ、その砂嵐が部分的に鮮明になって行く。
 
 ソレは一人の幼い少女と二人の男女と共に食卓を囲む光景だった。
 テーブルには誕生日のケーキが置かれており、その年齢分の蝋燭、そして名前の書かれたチョコレートプレートが飾られている。
 
「い、いまのって……」
 
 私の知らない人、知らない映像、知らない記憶。
 だがそれでも分かる事が有った、分かってしまった。
 その少女にも、二人の男女にも面影があったのだ、【獣使い】の少女の面影が。
 コレは私の記憶では無い……彼女にまつわる記憶だ。
 
 頭痛が徐々に引いて行き意識が、感覚が元に戻っていくのが感じられる。
 誰かが私の体をゆすり名前を呼んでくれている。
 今その声の元にこの身を委ねれば私は救われる事になるだろう。それが正解だと体が分かっている思考がそう言っている。だが、私の心はそう言っていなかった。
 このまま楽な方に行って、流れに身を任せて目の前の事実に向き合わないのはいけない気がした。ここで逃げてしまったら今後私は“魔術”の世界で立つ事が出来ない気がしたのだ。
 だから私はその流れに逆らう様に、より深く広く激痛の中へ、その砂嵐の中へと飛び込んでいった。
彼女を、泣き続ける少女を救える可能性があるのは自分だけだと信じて。
 
 
 暗闇の中で流れる映像には音声は無く、どちらかと言うと記憶の中の映像を切り取った写真の様になっている。より深みに沈んだせいか先程より鮮明になっているがその数が多く、どれがいつの時系列の物を切り取ったモノなのか判別が付かなかった。
 
“その断片”を見つけるまでは。
 
 真っ赤に染まる視界、横たわる二人の男女、散乱するボロボロ家具、光に照らされたを巨大な影、そして救いを求めてベッドへ伸ばす右腕とそれを拒み右腕を押さえつける左腕。
 それは“ジャバウォック”と呼んだ化け物に両親が殺される光景だった。
 
『………み』

『………とみ』
 
『………瞳!』

 目を覚ますと一人の少女の顔が私の視界に飛び込んできた。
 徐々に体の感覚が鮮明になって行き、視界、頭の霞が晴れて行く。

 

「うぅ……」
 それと同時に強烈な吐き気が催してきた。
 あの映像が真実だとしたらあまりにも辛すぎる。
 年端も行かない少女にとっては酷すぎる。だが、私は伝えなくてはならない。真実だとしたらコレはメッセージだ、あの子に伝えて欲しいという“彼女”からのメッセージなのだ。

 私はふらつく体を無理やり起こし、一歩、また一歩と【獣使い】の少女の元へ進んで行く。
 歩く音で私の事に気が付いた少女は再び鈴を鳴らし私達を攻撃しようと構えた。
 少女の目には憎悪と困惑が渦巻いており、もはや私に焦点が合っていなかった。

 満身創痍な少女に追い打ちをかける様な事になってしまうが私は言わなくてはならない。何せ私達は戦う理由など初めから持ち合わせていないのだから。だから私は少女を現実に引き戻すようにマリアが私にやった事と同じ事をした。

 

「もう戦わなくて良いのよ“リーちゃん”」
「……え?」

 その名前を呼んだとたん少女の動きがぴたりと止まった。
 そして只々私の顔を見て口をパクパクさせ放心状態になっている。
 その目では何でソレを知っているのか問いかけているように感じられた。

 

「見せてもらったの貴方の“お姉さん”に」
「お、おねえちゃん…が……だって…」
「死んだはずなのに……って? いいえ、死んではいないわ。ずっとあなたの傍にいていついかなる時もあなたを守っていたわ」
(ねぇ、そうなんでしょ?)

 

 私はそう言うと少女の背後にいる“人物”に目を向ける。
 【獣使い】の少女も私の視線の方へ恐る恐る体を向ける。
 そこには人の姿など何処にもない。そこにいるのは少女を身を挺して守ったボロボロの姿の一匹の邪竜だった。


 私が見たあの光景には2人の両親がおり、隣には小さな少女がいた。そして誕生会のケーキは小さな少女の方へと向けられており、取り分ける為のお皿が“4枚”あった。
 あの家族は4人家族だった。そしてあの視点はその少女の視点だったのだ。目の前の【獣使い】の少女では無く少女の事を第一に考える心優しい“少女の姉”の視点だ。
 そしてあの凶悪な事件、横たわる2人の男女の死体、光によって照らされた化け物の影、そしてベッドの方へ手を伸ばしもう片方の手で必死に抑える光景、初めは化け物から隠した妹に助けを求めようとした所、自分の意志でその手を止め、化け物に妹の場所を知らせないように孤独に死んでゆく事を彼女が選んだのだと思った。
 だが、現実は違った。
 光に照らされた影には少女の姿はどこにも無い。
 あの部屋に生きたまま立っていたのは“化け物”しかいないのだ。

 あの光景は右手と止める左手は助けを求めた手では無い。妹を殺そうとした衝動を強靭な意志で止めた光景だったのだ。

 

「お、お姉ちゃん……!?」

 

 【獣使い】の少女は恐る恐るそのボロボロになった邪竜に手を伸ばす。
 邪竜は少女の強靭な顎を少女の方にそっと近づけ彼女の手が届くところまで頭をそっと下げた。まるで少女の言葉に答えるかの様に。
 少女は邪竜にしがみ付く様にして泣き始めた。年相応の少女の様に、姉に甘える妹の様に只々泣き続けた。

 


「これで良かった…のかな?」
「瞳はどう思う?」
「私はこれで良かった……いや、コレが良かったと思う」
「そう、なら安心ね!」

 

 私とマリアは遠くから“二人の少女”を見守った。
 久しぶりに家族に出会えたのだ、今この時は彼女たちの時間だと私は思ったからだ。

 

「でも良いの?」
「何か?」
「多分そろそろ時間が無いよ」
「何の?」
「三人組の」
「あ!!」

 

 2人の世界に入り込んだ姉妹の元に急いで駆け寄り事情を説明する。
少女も私の言う事に承諾してくれ、無事3人の男たちは解放された。正確には気絶したまま眠っているのだが飲んだくれた挙句、路上で酔いつぶれたと勝手に解釈してくれることを祈るとしよう。

 

「これで一件落着だね!!」
「それはそうなんだけど……商店街が…」

 

 食われた人達は無事に救い出す事が出来た。しかし商店街には“怪異”と“マリア”が争った跡(主にマリアが作った数々のクレーター)が残されており、何もなかったと言うには少々無理がある様な……。そういえば気が付かなかったけど、昨晩襲われた時の後も今朝には直って……。
 

「ねぇマリア、この戦いの後だけど……」
 

 そこまで言いかけた時、突如私のスマホの電話が鳴りだした。
 非通知の電話、しかも一度も聞いた事の無い音声で着信を知らせる。
 画面を睨みつけているとマリアが一言「出ていいよ!」というので恐る恐るその着信を採る。

 

『ど~も~毎度御贔屓に!“掃除屋”です~!』
「え!?」

 

 聞こえてきたのは陽気な声をした中性的な人物だった。女性ともとらえられるし男性ともとらえられるその声は非通知の表示と喋り方からうさん臭さがにじみ出ていた。
 

『あれ? もっしも~し? 聞こえてますか? “文乃瞳”さ~ん?』
「え!? な、何で!?」
『聞こえてるじゃないですか、まったく、無視が一番精神的にきついんですからね』
「だ、誰?」
『あ、“掃除屋”です~。魔術師見習の貴方には今後お世話になると思ったので直接ご挨拶させてもらいました~』

 

 電話越しは果たして直接と言っていいのだろうか……。
 

『一言で言えば後処理係ですね、昨晩もそうでしたけど“魔術師”同士の戦闘や“怪異”で起きた被害を全て無かった事にしたり人的被害を良い様にごまかしたり記憶を操作したり、いろいろ後始末をしてます。そろそろ2名現着するので後はその二人の指示に従って欲しいっす』
 

 一方的に用件だけ語り出すこの人物は信用してしまっても良いのだろうか…まぁマリアが大丈夫と言ったのだから問題ないのだろうが、症状不安になる。
 

「あ、あの……お名前」
『あぁ、申し遅れたっす。自分【スケアクロウ】と言うっす。今後とも御贔屓にして下さいね~』

 

 と、嵐の様にやってきて嵐の様に消えていった。
 そして通話が切れたと同時に突如何もない所から2人の人物が現れた。
 1人は恐ろしい程に目付きの悪い悪人面をした錫杖を持った少年、もう1人は純白という言葉が似合いそうな倖薄そうな長髪の少女、どちらも恐らく中学生くらいだろうか。

長髪の少女はてくてくと私の方へと近づいてきて消え入りそうな声で「屈んでください」と一言言った。
 何が何か分からず言う通り膝をついて屈むと私の頭を両手でつかみ何かを唱え始めた。
するとどういう事か頭痛も体の痛みも何もかも初めから無かったかのように消えてしまっていた。

 

「凄い……ねぇ何してくれたの?」
 

 コレが治癒魔術という事なのだろうか、これなら文字通り医者いらずだろう。
 興奮した私は興味本位でそう彼女に質問すると、

 

「あなた、もうケガしてないから様な無い、サヨウナラ」
 

 と、小声で捲し立てる様に言い【獣使い】の方へと向かっていった。
 

(え、え~……私何かしちゃったのかな??)
「嬢ちゃんは何もしてないから感心していいぜ、アレはあいつの病気みたいなもんだ」

 

 等と不良少年?に年下扱いされた挙句励まされた……辛い。
 

「それにしてもさっきは感動したぜ、自分の信念を貫く為に自分の身を犠牲に魔術を使うなんて」
「え!?魔術??わ、私が??」

 

 少年の言葉に慌ててマリアの方に目を向ける。
 マリアは満面の笑みで親指を立て、「バッチリ」と言ってきた。

 

「使ったんだ……“魔術”…」
 

 私はむず痒い気持ちで一杯だった。満身創痍で何したかもわからなかったが私はマリアと同じ“魔術師”の入り口に立つ事が出来ていたのだ。
 

「………はははははは!!自分で気づかずに無意識にあれ程の魔術を行使したのか。うん、想像以上だ。嬢ちゃん気に入ったぜ」
 

 と言い私の背中をたたく不良少年。
 

「嬢ちゃんがどうしても力が欲しい時吹きな。1回、1回だけ助けに来てやるよ」
 

 と言い小さな笛の様な物を渡してきた。
 

「コレは??」
「俺からの選別?みたいなもんだ。精進しな、若い“ひよこ魔術師”」

 

 そう言うと彼はもう一人の少女の方へと歩いて行った。

 

「あの人たちが【スケアクロウ】って人の部下?」
「【スケアクロウ】って?」
「え!? さっきの電話の人……」
「あぁ、“掃除屋”さんねたぶんそうじゃないかしら、私も今日初めて会ったもの」
「あ、そうなの? 昨日も直したって言ってたからてっきり会っているのだと…」

 

 そうか、昨日はあの後直ぐに私の元に来たから会っていないんだ。
 知ってるならもう少しあの人たちについて聞きたかったな。

 

「瞳?」
「ううん、何でもない」

「瞳、あの子こっち来てるよ」
「あの子?」

 

 マリアの視線の先には先程死闘を繰り広げていた一人の少女がいた。
 ジャバウォックの姿はもう無く、彼女一人だけの様だ。少女も怪我を治してもらったのか体にも服にも傷が見当たらない。以前と違う所と言えばずっと持っていた“鳥籠”が見当たらない所なのだが……。

 

「あ……あの」

 

 少女から殺気は一切無く、寧ろ申し訳なさそうにうつむいてしまっている。
 おずおずとした様でとても言い出しにくそうにしているのが目に見えて分かる。

 

「誰も死ななかったし大丈夫よ」
「で、でも……」
「マリアはどう?」
「私は魔法少女だから何があっても平気だわ」
「だって。だから気にしないで。コレからはあんな危険な事はもうしないって約束してくれるなら許してあげます」
「し、しません! お、お姉さんにはお世話になったので……」
「うん、なら良し!」
「よかろう!!」

 

 私の答えに合わせる様に腰に手を当て自信満々にマリアが続く。
 ただ、私には一つだけ気になる事が有った。

 

「一つだけ聞かせて欲しいんだけど、“鳥籠”はどうしたの?」
「あれは今回の報酬として“掃除屋”さんに回収されました。私が持ってても危険な物だからって」
「危険!?」
「精神支配の強力な魔術が掛けられているみたいで、そのせいでお姉ちゃ…“ジャバウォック”も狂暴になっていたみたいです」

 

 彼女を自分の意志がはっきりしていた彼女が妹の為とは言え、人を傷つける行動に疑問を持っていたのだが、そんなからくりが……。
 

「って、みたいって事は貴方の持ち物じゃないって事?」
「葬式の時にお父さんとお母さんのお仕事の仲間という人に貰いました。その時にお姉ちゃんも“バンダースナッチ”も一緒に貰いました。魔力持ちの人達が無意識に“怪異”を生み出しているという事も」
「じゃ、じゃあ私を狙ったのはもしかして……」
「その人たちに教えてもらいました。“怪異”を消すには“魔力”持ちの人達を殺さないといけないって」

 

 入れ知恵している人が居た。年端も行かない少女お心が壊れている所に付け込んで復讐心を煽っている人が。

 

「その人、どんな人か知ってる??」
「えっと……黒いスーツの大人だった事しか…後はすごく目が細かったような…。ごめんなさい、よく覚えてないです」

 

 それもそうだ、まだこの子は11才。まだランドセルを背負っている年齢だ。ここまで大人びている方が珍しいくらいだ。それに家族を失った瞬間の喪失感は私も良く知っている。
 

「ううん、無理しなくて大丈夫よ、ありがとう。助かったわ」
 

 これ以上聞くのは少々酷というモノだ。

 

「嬢さんらまだこんな所いたのか、もう夜遅いから女子供は帰った帰った。後仕事の邪魔だからさっさと行け。あと今日は疲れてるんだろうからゆっくり休んで寝ろ」
 

 少年に怒られてしまった。

 君も子供では無いだろうか?と思ったが言及するのは止めておこう。
 私達は名前も知らない少年少女に見送られるようにしてその場を後にした。


「瞳!見てみて!!髪の毛天に昇ってるわ!!」
「マリアお姉さん泡飛んでます!」
「その赤い髪も天に昇らせてやろうか!!」
「ひ、瞳お姉さん助けてください!」
「今お姉ちゃんの体洗ってるから手離せな~い」
「そ、そんなぁ~」
 
 何故お風呂イベントが突如入ったかと言うと、“リデル”のお家に人が居るのか、そもそも今あの家に住んでいるのかと聞いた所、今は一人で暮らしていると言ったのだ。

 元々父だけが日本人だったらしく日本にいる親戚は彼女たちの事をあまり良く思っていないとの事で、あの事件の後は親戚の家をたらい回しにされたあげく、今はプレハブ小屋で一人暮らしをさせられているという。
 まともな食事もとっておらず、様子を見に来る事も無いとの事だった為、マリアの鶴の一言で今日は家に泊まる事になったのだ。
 彼女の姉“ジャバウォック”は傷を癒してもらった際にいつでも一緒に居られるようにコンパクトにしてもらったらしい。正確には傷を癒す際に『可愛くない』と言われたショックで自ら姿を縮めたとの事である。そんな芸当が可能なのだろうかと思ったのだが、マリアに聞くと『攻撃魔術しか知らないわ』とどや顔で言われてしまったのであきらめるしかなかった。
 こうして4人で仲良く英気を癒す為に家のお風呂に入る事になったのだ。
 
(こう押してみると年相応の女の子なのに、いったい誰がこんな事を)

 

 湯船につかりながらマリアと楽しそうに笑うリデルの目にはかつての殺意を感じなかった。
 

(確か、糸目の黒スーツって言ってたっけ。葬式で黒スーツは不通に考えれば喪服なのだけどそんな人いくらでも……あれ?) 
「瞳??」
 
 分からない、分からないけど何故かそのような人物を明確にイメージする事が出来た。
 私もどこかで黒いスーツで糸目の人物に出会った事が有る気がする。いつ、一体何処で?


『よくこの場所に姿を表せたものだね』
 

 誰かがその人物に声を掛けているシワシワの手の後ろからその光景を覗き見ているのだ。
 だけど、彼女の映像には老婆など……。

 

『あんた達を呼んだ覚え無いよ、帰っておくれ』
 

 この声、この気迫、私は知っている。
 

「……もしかして!」
 

 シワシワの手の主を見上げるとそこには私の良く知る人物“文乃時雨”の姿があった。
 【獣使い】“リデル”の物語は私、“文乃瞳”の物語と繋がっていたのだ。

Presents:​星屑コノハ

  • 黒のYouTubeアイコン
bottom of page