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 それは突然に目の前に現れた。


 今まで見た事も無い赤色の光と警戒心を狩り立たせる音を鳴り響かせながらそれは下から突如現れた。

 闇に溶け込みそうな黒色の髪に冷たく刺すような深紅の瞳を持つ少女、肌は今にも消え入りそうな程に白く、ボロボロの布をワンピースの様にかぶり、チェックの布で辛うじて止めている。両足に足かせを付けており、正に囚人と呼べる姿であった。
 何よりも異様なのはそんな少女の背後に漂う無数の黒い刃である。
 大小さまざまな刃はまるで宙に浮く翼のようにも見える為、一目見た時目の前の幼い少女を“黒い天使”の様に見えてしまった。 
 
 そんな異様な少女を目の前にした僕は只ただその様子を見上げ呆けている事しかできなかった。故にその結論にたどり着くまで大きな回り道をしてしまったのだ。


「え!? 人間!?」
 

 そう、目の前にいるのは人間の少女、背中に異様な物があるが天使では無く列記とした人間である。
 

「………」
 

 少女は何も言わずにただこちらを見つめていた。

 それ所が喋った事に興味を持ったのかじりじりと近寄り、目の前で座り込み背中の刃で突こうとし始めた。
 あぁ、その刃はダメだ、絶対に触れてはいけない気がする。


「ストップ!スト~ップ!! そんな物騒な物人に向けるんじゃありません」

 

 少女は口をパクパクさせているが何を言っているのか分からない、空気の吐き出す音は聞こえるが音として言語が発せられている様には思えなかった。
 

「もしかして……“喋れない”のか?」
 

 少女は首を縦に振った。
 コレは参った、意思の疎通は出来るみたいだけど、この子が何を考えているのか分からない。何とか刃を止める事は出来たがこう何度も同じ事が有ったらこちらの身が持たないぞ。それにこの少女、恐らく……。
 
 少女が上がってきた穴の下を恐る恐る覗き込む。
 そこには無数の玩具で作られた“山”が存在した。そして、僕はソレ等に見覚えがあった。ソレは僕が目覚めてから毎週毎下に届けていた玩具達だった。

 僕の今までの仕事はこのフロアにある玩具を修繕し、ここより下層に居る最重要人物にその物を送り届ける事であった。

 つまり今下層からこのフロアに上がってきた彼女こそが正真正銘その最重要人物、この“監獄塔”の最上危険人物“アリア=グリモワール”その人であると。

「君の名前は“アリア”……かな?」
 

 自分の中で既に結果の出ている質問を少女に向かって問いかける。
 何故そのような問いかけしたのかは分からない。現状を受け入れたくなかったのか、それとも誰かに否定、若しくは肯定して欲しかったのか、僕にも分からなった。

 

「………??」
 

 少女の反応は自分が想定した物と全く異なる物だった。
 少女は黙って首を横にかしげるだけだった。

 まるで何を言っているのか分かっていないように。
 そしてその行動で一つの推論が経った。
 彼女は自分が何者か分からない若しくは覚えていない状態だと。
 彼女が“アリア”その人であるのならばこの結果に思い語る事が有る。確か最下層の囚人は長期的な……

 

『エラー脚部に深刻なエラー発生、回路のショート確認、緊急切断いたします』
 

(え?何事??)
 

 足を切り離した事で大きくのけぞりその場に倒れこむ。恐る恐る自分の足のあった場所に目を向けるとそこには黒い短刀で貫かれた足を不思議そうに眺める少女の姿があった。
 

(あれ……僕の足だよな? さっき切ってはいけないって警告したよな、もしかして……)
 

「ロボット……僕も切ってはいけません!!」
 

 少女は不思議そうに僕を見た後、悲しそうな顔をしながら頭を下げた。
 悪い事をしてしまったと自覚し罪悪感が沸き上がったのだろう。なんて素直な良い子なんだ、よくよく考えればロボットなのにも関わらず人間ずらしていた僕に責任が有るともいえるこの状況なのだが、なんだか申し訳ない事をした気がする。

 だがこんな聞き分けの良い子が何故こんな場所に収監されていたのだろうか。いささか無知な所があるが、それでも脅威と呼ばれる程の物では無いような気がする。話せばわかってくれるし外観年齢相応の少女にしか見えないのだが……そもそもこの少女はいったい何故下から上がってきたのだろうか?


「アリ……君はどうして下からここに上がってきたんだ?」
 

 少女はその問いかけに一つの写真を見せた。

 下半分は色あせてよく見えないが上半分には満点の星空が映っていた。
 

「もしかして空が見たいのか?」
 

 少女は何度も首を力強く縦に振った。
 

(そうか、この子は只星空が見たいだけなのか、たったそれだけの為に天井を突き破りここまで来た。喋る事が出来ず一般的な知識も無いこの状態でそれだけを頼りに…)


「確かにこの“監獄塔”を登り切れば外に繋がっているけどそこまでかなりの道のりがあるけど…大丈夫?」


 少女は再び首をかしげる。何を言っているのか分からないという事、そもそもここが何処なのか知らないのでは無いのだろうか? だとしたら相当無謀な事をやろうとしている事に一切気が付いていないのでは……。
 

「“監獄塔”って分かる?」
 

 少女は首を横に振る。
 あぁ、やはりそういう事か……はたしてどうした物か、僕の役割は少女(下の階層の人物に玩具を届ける役割がある訳であってこの少女を救う事では無い。そのようなプログラムは埋め込まれていない。だからこのまま彼女を見送る事が出来る事になる。

 いや、待てよ…そもそも下にいたはずの少女がもう居ないのならば僕の仕事は既に崩壊していないだろうか? ならば律義にプログラム通りに行動しなくても良いのではないだろうか、寧ろ自身の思考に基づいた行動をしても良いのではないだろうか?


 気が付けば僕は少女にこの場所について説明をし始めた。
「ここは“監獄塔”って呼ばれる凶悪な囚人たちを収監している施設で、その中の第5フロアに属する場所なんだ。監獄塔は全部で6フロアあって数字が大きくなればなるほど凶悪な囚人が収監されている事になる。その中で唯一囚人が収監されていないのがこの5フロア、様々なジャンクや玩具の倉庫みたいになっている所でもあり、第6フロアと第4フロアを隔てる大きな壁の役割も果たしている場所なんだ」
 そう、目の前にいる少女と上の4つのフロアの囚人を出会わせないようにする為に作られたかのように。

 

「星空を見るのなら後4フロア上に進めば見えると思うよ。ただ、僕もここより上に出た事が無いからどんな場所か知らないけど、資料によれば危険な囚人が居るみたいだから気を付けて……」


 このまま見送ってしまっていいのだろうか?
 世間知らずなこの少女をそのまま送り出し、無責任な大人に騙されてしまわないだろうか? そもそも一人で生きていく事が出来るのだろうか?
 様々な不安が頭に過り思考を加速させる。
 等の少女はこちらを見つめ一歩も進もうとしない。上のフロアへの生き方が分からないのだろうか、確かに下から天井を切り裂いて上がってきたのだ、知らなくとも無理はない。

 

「ちょっと待ってな、今地図を……」
 

 そう言いかけた時何かに体を引っ張られた。
 先程の切断された感覚では無い。そもそも機械の体なのだから感覚というモノ自体が無いのだが、感覚が無くとも分かる。気が付けば自分の体は少女の手によって宙に浮かされていた。


「な、なにを!?」
 

 慌てて少女の方へ首を回すと、一人の悲しげな表情が目に止まった。

 そしてその少女は必死に喉を振り絞り何かを伝えてくる。しかし少女の声は空気を伝わらずこちらに届く事は無かった。
 だが、表情を直接見ていた僕にはわかった。少女の表情から、口の動きから何を言っているのか司会する事が出来た。

 

『いっしょにいこう』

 

 幼い少女は機械の僕に対して共に行こうと言ったのだ。
 言語を話し、意思疎通が出来るが所詮はロボット、人の作り出した産物であるこの僕に、まるで一人の人間に話しかける様に言ったのだ。それが僕にとっては何よりもうれしかった。そこでやっと気が付いた。
 少女は長い歳月一人で過ごしてきた。

 多くの玩具に囲まれながら、この暗くて広い地価の中たった一人で。それはどれ程孤独な事なのだろうか。自分には理解できない事だろうと勝手に思っていた。

 だがそれは間違いだった。

 長い歳月同じ環境で一人孤独を過ごしていたのは自分も同じだった。
 この世界で唯一お互いの気持ちが分かる対等な存在、少女はそれを分かっていた。いや、直感的に理解したのだ。僕等はお互いにとって唯一無二の存在であると。だから少女は言ったのだ。

 共に行こうと。

 

「……“アリア”」
「???」
「君がどこの誰かなんて関係ない、君は僕の唯一無二の友人で家族だ。僕の家族の“アリア”だ」

 

 少女は自分の名前を聞くと何処か嬉しそうに笑った。
 二人横に並び次の階層の扉まで足を運ぶ。

 

 この先は第4フロア、このフロアとは違って危険な囚人が沢山収監されている場所だ。だけど自然と怖くはなかった。寧ろワクワクした。この先どんな困難が待ち受けようとも僕らは歩みを止めない。この先に二人の未来があると信じて。
 
 ココからは"僕"と"アリア"が星を見に行く物語だ。

Presents:​星屑コノハ

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