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「それで?」
「え!?」
「昨日どうだったの?愛しのあの子にはちゃんと会えたのかい?」
一晩明けた私は日常を取り戻す為に大学へ向かい、今こうして昨日と同じくカフェテラスで友人の夏織と昼食を取っていた。違う事を考えながら食事を採っていると夏織からそんな言葉が投げかけられたのだ。
そして、その言葉を皮切りに昨晩の出来事を思い出す。
「わぁ、意外とキレイにしてるのね。白ベースの清潔感のあるお部屋、少し狭いけど気に入ったわ」
商店街で異常の化け物“怪異”と対峙した私魔法少女マリアと名乗る人形の様に美しい少女に出会い命を救ってもらった。話を聞くと奇跡的にその場に居たのではなく、彼女はおばあちゃんに頼まれて私を助けに来たとの事だ。“怪異”と、自分の魔力をコントロールする為に。
流石に深夜に少女と女子大生が語れる場所が無かった為、私の家に連れて帰る事になったのである。家にこんなかわいらしい子を連れ込むとは、なんというか背徳感が……。
「おねぇさん?」
一人煩悩と争っていると気が付けば少女が私の顔を覗き込んでいた。
やめてくれ、これ以上私を試さないでくれ。
「マ、マリアちゃんお腹すいてない?何か作ろうか??」
「さっき食べたから大丈夫」
「そ、そう?じゃあ私だけ食べちゃうね」
冷蔵庫を開け簡単な軽食を作り始める。そういえばお風呂もまだだった事を思い出し風呂場に足を向けようとすると先程まで部屋を物色するようにウロウロしていた彼女の姿が何処にも見えなかった。
慌てて探し出すとマリアは気持ちよさそうにベッドの上で息を立てて眠っていた。
「そうよね、あんな事があったのだものいくら“魔法少女”だとしても疲れちゃうわよね…」
眠る少女にそっと布団をかけた時にふとある事に気が付いた。
「……私、どこで寝ればいいのだろう」
という事が昨晩あり、結局“怪異”や“魔術”に関しては一切教えてもらえなかった。
雑魚寝して体は痛いわ、家を出るまでマリアは寝ており、何も進展は無いのだ。
かと言ってあの出来事をそのまま話す訳にはいかないのも何となく分かる。少なくともマリアから何かしらの説明を受けるまでは何もしない事が一番だろう。
「何も無かったよ」
すました顔で紅茶を飲んでそう答える。
「…そっかぁ、残念。瞳ドキドキ物語はまだ始まっていないのかぁ~」
「なにそれ?」
「瞳を中心で回り出す少女と様々な困難を乗り越えて結ばれる愛の物語だよ」
「ないない、そんな事無い」
昨日正にドキドキするはめになったのだ。これ以上何かあってたまるものか。
「そうかい?私はいいと思うよ。ありきたりだけど素敵な物じゃないか、困難の中で結ばれる真実の愛。出来る物なら味わってみたいじゃないか、物語のヒロインとして」
「そりゃぁそうなれたら良いけど……」
「………」
「え!?何??」
「顔の横にクリームついてるよ」
「え?うそ!!……って今日クリームある物なんて頼んでないよ」
「瞳は素直でかわいいね」
いたずら笑みを零し夏織はクスクスと笑った。
「さてと、私そろそろ行くね」
「講義?」
「いや、サークル。後輩が夜に行きたい場所が有るらしいからその付き添い。どっかのトンネルって言ってたかな?」
彼女はそう言ってその場から立ち去って行った。
もっと根掘り葉掘り聞かれると思っていた私は少々拍子抜けだったがコレはこれで良かったのかもしれない。
家に帰ってマリアの様子を見に……。
そう考えて席を立とうとしたら入り口の方で黄色い声が耳に入ってきた。
複数の女性が屈みながら誰かと話しているの様だ。
まぁ私には関係ないだろうと考える自分がいたが、その中心にいる人物を見た瞬間、開いた口が塞がらなくなった。
「何しに来たの?」
「おねぇさんを探してるの」
「誰おねぇさん?」
「おねぇさんはおねぇさんよ……あ!!」
その人物は私と目が合うと満面の笑みで手を振り、「おねぇ~さ~ん!!」と叫んだ。
「どうしてここまで来たの?」
大学を抜け出し喫茶店に入った私に目の前の少女はそう問いかけてきた。
私からしたらなぜ大学まで来たの? という疑問があるのだが彼女の様子を見るに一切の悪気は無いのだろうと犇々と感じる。そんな子に私は叱れる程度胸は無い。
「昨日の事の説明、ちゃんと聞いてなかったから、人払いを兼ねてね」
と、いかにもそれっぽい事を無理やりでっちあげ誤魔化した。
夏織が聞いたら高々と笑って「ごまかしているのが見え見えだぞ」など言ってくるだろう。
だが少女は私の説明に納得したのか目を輝かせ『おぉぉ~』とまで行ってしまう始末である。純粋な少女を騙して胸が締め付けられる気持ちでいっぱいです。
時計をちらりと確認し面会時間までまだある事を確認しマスターに本日のケーキセットを2つ注文する事にした。
話を始めるのは食べながらでも大丈夫だろう……大丈夫だよね?
暫く待つと二人の前にコーヒーとケーキが運ばれてきた。
今日のメニューはガトーショコラ、今日は自分にとっては当たりの日かもしれない。
目の前のケーキに心躍らせてフォークを入刀、そしてそっと口の中に放り込む。
「おいし~!!」
思わず口を零してしまい恥ずかしくなってきた。
恐る恐るマリアの方に目を向けると彼女はただ黙って私の方を不思議そうにじっと見つめていた。
「な…なに??」
「それ美味しいの??」
「うん、美味しい…よ」
マリアの目の前にも同じものがあるのだが彼女は何故か私が食べている物を物欲しそうにじっと見つめている。
「食べないの?」
思わずそう聞くと彼女は『食べたい』と言って口を開けたまま動かなくなった。
(えっと……コレは食べさせてって事??)
恐る恐る口元に運ぶと勢いよくかぶりつきショコラを味わい始めた。
「どう?」
「美味しい?」
「何で疑問形なの?」
「初めて食べたから良く分からない。でも“コレ”が美味しいか!!」
初めて食べた?ガトーショコラを?それとも美味しいモノを?
いや、そうじゃない。今の言い方はそんな言い方では無い。一日過ごした感じから恐らくマリアは裏表の無い子だろう、少なくとも私にはそう見える。ならばこの言葉はそのままの意味で捉えてしまってた方が良いのかもしれない。
だがそうなると別の問題も出てくる。マリアは今まで食事という概念を、行為を行った事が無いという事になる。
そんな事はあるのだろうか、生まれてこの方食事による栄養摂取を行わずに生活している人間がいるとは今までの常識では考えられない。だが昨晩私は常識外の事を目の当たりにしたばかりだ。それに彼女は昨日“今夜は焼肉”と言っていた事から食文化は知っている筈だ。だが、食事を採ている所を見た事が無い事もまた事実である。
「マリアはごはん食べないの?」
「食べた事無いよ、必要になった事無いもん」
「そう、そっか……」
私はなんだかやるせない気持ちになった。人間の三大欲求ともいわれている食欲を取り除かれた彼女にとって世界はどの様に見えているのだろうか。私には容易に想像することなどできなかった。
只、救いがあるとすれば今こうして口を開けてケーキを楽しんでいるこの笑顔は本物だろう。
「結局ケーキを食べるだけになっちゃったね」
「また行きたい」
「また今度ね」
喫茶店を出た私達はある場所へと向かっていた。
町内にある一番大きな病院であるJL総合病院。その中にある病棟のとある一室だ。
完全個室のその部屋には一人の名前が書かれていた。
【文乃時雨】
文乃書店の正式オーナーにして私の唯一の肉親であるその人だ。
現在は腰を痛めて病院で入院をしているのだが……。
『いぃ~ひゃっほ~!!』
「時雨さんやい、シャンプ台でぶつけてくるのはどうかと思うぞい」
「せやせや、そんなん自分だけ出来るなんて犯則や犯則」
「ワシなんて時雨さんの背中すら見えん」
「ボケ老人共が私に勝とうなんて100年が早いわ」
「「「100年経ったら仙人になってまうわ」」」
と、三人のおじいさんと○オカートを繰り広げる御年90歳の現役バリバリのおばあちゃんがベッドの上でジャイロを極めて叫んでいた。
「おばあちゃん……??」
「おぉ瞳ぃ~」
おばあちゃんは私を見た瞬間にコントローラーから手を放しこちらに手を広げてきた。
そのすきに3人のおじいさん達は口をそろえて「「「今じゃ!」」」と言い一気に抜かしてゴールまで突き進んでいった。
最終結果はおばあちゃんが最下位でゴールする事となり、おじいさん達は私に「瞳ちゃんありがとう」「ナイスタイミングや」「勝利の女神身内にあり」など各々の言葉を残し勝ち逃げする形でそそくさと立ち去って行った。
おばあちゃんは抜けていく三人に「おとといきやがれ!」など良く分からない言葉を吐き3人を見送っている。“おばあちゃんと3匹のおじじ”の集団コントを見せつけられたが
問題はそこじゃない。
「おばあちゃん暫く安静って言われたでしょ」
「だって~暇なんだも~ん」
口を3にして文句を言う90歳のおばあちゃん、腰を痛めてベッドで寝ているハズなのにこの有り余る元気はいったいどこから来るのだか……。
「所でそちらさんは?」
「あ、この子は……え⁉」
おばあちゃんの依頼で来たと言っていたけどおばあちゃん知らないの!?
もしかして嘘!?それともおばあちゃんがとうとうボケてしまったのだろうか……
続く言葉が出ず慌てていると私より先にマリアが動いた。
「貴方が時雨ね、私は“マリア”貴方の依頼を受けて“瞳”に生きる術を教えに来た者よ」
「………」
おばあちゃんはその言葉を聞いて口元を抑え声を失ってしまった。
「おばあちゃん?」
「嘘……」
やっぱり“嘘”だったのか!と思ったら……
「私こんなにかわいい子が来るなんて聞いてないわ!!」
等と血迷った事を言い出した。
いや、人の事はあまり言えないか……恐るべしこの血筋…。
「依頼したのはおばあちゃんなんだよね?」
「そうよ、この間お見舞いに来てくれた時にそろそろやばいなって思ったから手紙を送っておいたのよ。ただ、噂のあの人がこんなに小さな可愛らしい子だとは思わなかったわ、おばあちゃん感激」
一通りいじり倒して満足したのか、おばあちゃんは一呼吸おいて事の顛末を話し始めた。
文乃家は代々魔術師の家系でこの土地を守ってきた一族の一つらしく、おばあちゃんが今代の頭首その人との事らしい。土地を守る魔術師の家系は3つあり、一つは政治的思想から人々を導く事を担い、一つは霊脈を安定させる為に都市開発を円滑に進める事を担い、そして最後の一つである“文乃家”は様々な魔術的記録を保持し保管し続ける事を担っているという事だ。
「って事はもしかしておばあちゃんの“文乃書店”ってもしかして!?」
「魔術師御用達の魔術書を保管している禁書庫その物になるねぇ」
私はとんでもない所で何も知らずに働いていたのか……。
「ん……って事はお父さんもお母さんもこのこと知ってたの!?」
私の両親はあの本屋で働いていたし家族全員が揃う場所と言ったら決まってあの場所だった。
「知っていたよ。二人とも他所に行かずにあの場所を守る事を選択してくれた自慢の子よ」
「……じゃあお父さんが良く出張に行ってたのも、お父さんとお母さんが“事故”に会ったのも」
私は今でも覚えている。
両親と最後に会ったのはあの書店で二人を止めるおばあちゃんと一緒にその背中を見送ったのを。当時10歳にも満たなかった私に両親は一言「行ってきます」と言って私の頭を優しく撫でて家を出て行ったのだ。そして後日、交通事故に会った二人の亡骸を発見したとの連絡を貰った事も。
「文乃書店は魔術師の界隈では“図書館”と呼ばれているあの場所では外で発見された魔術書を回収して保管する場所になっている。あの子がいつも出張していたのはそれを回収する為じゃ。あの日も一つの魔術書を回収しに行って……」
「戻ってこれなかった……」
おばあちゃんは黙って首を縦に振った。
昨日の出来事から“怪異”が異形の存在だと知った。魔術師がそれを退治する事が出来る異常の存在だと知った。だから私には分かる。お父さんとお母さんはそれが世間に露呈しない為に、人々のこの平穏な日常を守る為にそんな危険な仕事を請け負ったのだと。
「おばあちゃん……ありがとう」
悲しくないと言ったら嘘になる。両親に会えない事、あの時引き留めなかった事を公開しない日は無かった。だけど、二人が信念をもってその事を為そうと思っていた事に、おばあちゃんが倒れてからあの書店を続けていた事に意味があった事に私は嬉しかった。
「マリアを呼んだのはその回収を続けて欲しいからって事? アレ?でも探偵事務所を手伝うって……」
「回収は知人の同業者にお願いしたから大丈夫よ。いつも不定期に本を追加してくれる業者がいるでしょ。あの人たちが仲介人よ」
「え!?あの本普通に書店に並べちゃってるよ!!」
「あぁそれは大丈夫。あの書店自体が特別な場所だからあそこにあれば安心だからね。それに普通の本も混じっているからよっぽどの知識や目利きが出来る者しか分からないし、一般の人には目に止まらないように細工してあるから」
「???」
「空間魔法の一種よ!あの古本屋の中は時空が捻じれていて普通の人が魔術書を見ようとした時に他の本に目が映る様に細工してあるわ。魔術書は正式な手順を踏まないと購入出来ないから一般のお客様は只の本しか買っていかないわ。よく手品であるミスディレクションというものに近いわね」
病室に合った茶菓子を口にほおばりながらマリアはそう言った。先程のケーキがよっぽ
ど美味しかったのか、リスと見間違えるくらい頬袋パンパンにしてお茶を楽しんでいる。
「それがあるから安心って事?」
「ほかにも色々あるけど、あそこは一種の独立した世界になっているからその血筋の者には手出し出来ないし、契約を結ばないと魔術概念の物は中から持ち出せない。それとそれほど大量な物が一カ所にあると周囲に悪景況が出てしまうから、空間ごと隔離して魔力を外に出さないようにしているのよ。おねぇさんが魔力垂れ流しでも今まで被害が無かったのはその為ね」
今分かった。大学生のバイト感覚でやっていたあの仕事はおばあちゃんが私を守る為に了承してくれていたのだと。
「私が“先生”にお願いしたのは貴方の魔力が成長と共に大きくなっていしまったから、その影響が周囲に影響を及ぼさない為に力の使い方を教えてもらえないかと思ってね。私は今動けないし」
と、マリアの方を見て説明するおばあちゃん。
「……先生」
子供に教わって良いモノなのだろうかと思いながらマリアをじっと見つめる私の視線に気づいたのか、おばあちゃんは耳を疑う一言を加えてきた。
「安心しなさい“先生”は世界で5本指に入るくらいのとても優秀な“魔術師”なのだから」と。
病院を後にした私達は今後の行動をすり合わせる為に“図書館”こと文乃書店に戻ってきた。
半信半疑だがココが一番安全な場所との事らしい。
「それで私は何をすればいいの?」
先生モードになったのか、わたしの膝の上に座ったマリアは眼鏡を掛けていた。知的に見えるが行動が子供らしいので背伸びしている様にしか見えないのが残念で素敵である。
「まず最初に“魔術”について説明するわね」
そう言うとマリアは無地の紙に絵をかいて説明を始めた。
「私達“魔術師”の魔術は様々な物を媒体にしてそこに魔力を与える事で、その“結果”を得ているの。オーソドックスな物とかおねぇさん……瞳が想像しやすいモノで言うと“魔導書”かな。最初に“魔術師”って言われてイメージされるのが本を持って魔法とかを使い人だと思うんだけど、これにおいて“媒体”にしている物が“魔導書”と呼ぶ本の事だね。この本にはその“結果”を起こす為の術式が記されていて、その本に魔力を通すとその“結果”を起こす事が出来るの」
更に絵を加えて説明を続ける。
それにしてもいきなり名前で呼ばれた時はドキッとしたな……。
「例えば“火を起こす魔術”を使う場合、その術式が書いてある魔導書に魔力を通す事で“火”という結果が起こせるわ。ただ魔力を通すだけではその事象は発生しないの。そこで大切なのはイメージよ」
「イメージ……」
「その結果がどのように起こるか、魔力を通した者が明確なイメージを起こした時、その事象は顕現するわ。“魔導書”はそのイメージをサポートする為に簡略した道具とっても良いわ。“魔術師”は物にその術式を刻みイメージをしながら魔力を通す事で”結果”を起こす事が出来るの。要はイメージを具現化しているのね。因みに別に本じゃなくても良いし、術式も何でもいいわ要は本人がイメージしやすければ何度も良いの。極論文字は書かなくてもイメージと魔力さえあれば誰でも“魔術”は使えるわ。只、術式は魔力を通す上での道にもなるから極力書いた方が良いわね。でないとたった一つの事象の為に四方八方に余分な魔力を放出しないといけないもの」
「何となく分かった……」
あれ?でも昨日マリアは何も書いていなかったような…
「因みに私程になると術式を頭の中でイメージして“魔言”を唱えるだけで魔術が使えるわ」
成程……でも一回失敗していたのはもしかしてイメージの術式が間違って…これ以上は言わないでおこう。
「先に言っておくとここにある“魔術書”と“魔導書”は別物だから注意しなさい」
「何の違いがあるの?」
「“魔術書”は文字通り魔術そのものが記載された書物なの。要はその魔法の問い扱い説明書の様な物ね。ゲームをするのに取扱説明書(“魔術書”)があって、そのゲームを行う為にゲーム機である器(自分)がROM(“魔導書”)を読み込んで電気(魔力)を流す事でROM(“魔導書”)の中身を行使する事が出来るようになるわ。最近ではダウンロードとか本体(自分)に読み込んでそのまま魔法を使う事が出来るみたいだけど、それと同じ事を昨日私が実行したのよ」
ゲームは良く分からないけど何となく“魔術”の仕組みは分かったが、ここにある本は昨日見た小さな太陽の様な物を引き起こす書物が沢山あるとって事か……なんだか火薬庫に入っている様な気がして気がめいりそうだ。
「大丈夫瞳は“魔術”が何なのか全く知らないから事象が起きる事は無いわ。それにその駄々洩れも魔力をコントロールしてこの“図書館”を管理できるようになるまでは私が付いているもの!!」
小さな体で何とも頼もしい限りである。
「さて、何か質問は?」
先程の説明を聞いて一番最初に頭に余技た事が有る。
「……昨日“怪異”の条件を聞いた上で今の説明を聞くと“怪異”の出現条件が非常に似てるんだけれどもコレってもしかして」
「鋭いわね!そうよ、“怪異”も“魔術”によって生まれた物よ」
やはりそういう事になる。つまり昨日私は“魔術”を用いて“怪異”を生み出した事になる。
「昨日の“魔力”が私から供給された物、“媒体”はあの場所? そしてイメージは私が想像した物としたら、その“術式”が無いと“魔術”って発動しないんじゃないの?」
「そうよ、術式は必ず必要、目に見えなくても“魔術”を行うには必ず。でも瞳は“術式”を知らない、けど術式がその場にあれば別、条件さえそろってしまえば無意識でも発動してしまうのが“魔術”なの。だから必ずあの場に術式はあった事になるわ。私が商店街を探し回った時はそんなもの何処にも書かれていなかったけどね」
「調べたの!?」
「瞳が魔力垂れ流しになるのは夜遅くって気づいたから、帰り道を先回りして調べていたの。家は時雨に聞いていたわ」
通りでタイミングの良すぎる登場の仕方だった訳だ。でもそうなるともっと大きな問題が出てくる。あの場に書かれていないという事は“誰かが意図的に持ち込み、持ち帰った”という事になる。つまりあれは事故的に生まれた“怪異”では無く、人為的にワザと生み出された“怪異”という事になるのだ。一体誰が、何の目的で……。
「鈴……」
「どうしたの?」
「“怪異”に襲われる前に鈴が鳴る音が聞こえたの。それって何か関係ある?」
そう聞くとマリアは両手を広げて足をばたつかせて喜び出した。
「大手柄よ瞳! それは間違いなく【獣使い】の仕業だわ」
「【獣使い】?」
「そうよ、今はあまり聞かなくなったけど“音”を利用した“魔道具”を使用して“怪異”と契約を交わし使役する事が出来る“魔術師”よ。あ、魔道具ってのはさっき説明した“魔導書”と同じ“魔術”を使用する時に媒体に使用する道具の総称の事ね」
つまり昨日の出来事は【獣使い】が使い魔を増やす為に張った罠に“魔力”を垂れ流しにした私がまんまと引っ掛かり“怪異”が生まれてしまった。そして、一番の問題だった“術式”がその【獣使い】が持っている。
「……ねぇ、“怪異”って誰にでも見えるわけじゃないのよね?」
「一定量の魔力を持った人なら見えなくもないけど“見よう”としないと大抵は気が付かないわ。若しくは昨日の瞳みたいに巻き込まれれば魔力の無い人でも自分に関わる物なら見る事が出来るようになるけどね」
「じゃあ昨日みたいに戦っている所を魔力を持たない人に見られたらどうなるの?」
「見えない何かに巻き込まれるか、見えてしまって巻き込まれるかのどちらかね。最悪は隠匿の為に“処理”しないといけなくなる事もあるわ」
“処理”それってつまり……。
「それ専門を請け負っている所があるの。魔術での被害を無くす為に壊れたモノを修復したり記憶の改竄ね。だから瞳が今考えている様な事は無いから……あら、誰か来たわ」
話を途中で区切る様にしてマリアが入り口の方へと目を向ける。
だが今日は看板を閉店にしていた筈なのだがいったい誰が……もしかして他の魔術師!!ちょっと待って、まだ心の準備が……。
『ガラッ』
慌てる私を無視して開かれた扉の先には思いもよらなかった人物が立っていた。
「大将やってる??」
ひょうきんなあいさつで入ってきたのは私の唯一の友人である“間宮夏織”だった。