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“破滅の魔女”の魔法は一度掛けたら最後、そのモノが対価を支払い続けるまでその活動を終わらせる事は無い。生物ならばその生物の生命を、物質ならばその物の生命を奪い続けるまでその力は発揮される。
それ故に初めに少女の手によって刻まれた第6フロアの天井は徐々にその力の影響を受け天井から壁、壁から床へと老化を始めていた。
老朽化した建物の地盤が崩れて行き支える物が無くなった“監獄塔”は内側から崩壊して行き、その建物全てが地の中に崩落していった。
崩落と共に研究資料も全て土の中へと帰る事となった今では、もう二度とあの施設の様な研究が行われる事は無いだろう。
少なくともあの施設の生き残りは誰もいない。
一つの少女を除いては。
少女は施設を抜け出した後、夢幻に広がる大地を歩みながらある場所に向かっていた。
何故その場所を知っていたのか少女には分からなかったが、自分がその光景を見る事が出来るのならそんな些細な問題など気にしていなかった。
その場所は人里離れた森の中にあり、一軒の古びた小屋と雑草で埋め尽くされた畑、と井戸、そして横たわる大きな丸太が存在していた。
自分の持っている写真を見て周囲を見渡す。
下半分が見えない為、一致する所を探す事は出来ないが少女はこの場所が写真の場所だと何となく感じていた。
左手に抱えていた箱を隣の丸太に乗せ天を見上げる。
赤い空が処々に黒く染まるのを眺めながらじっとその光景を待ち続けた。
目の前の木々が揺れ木の葉が舞い散る。
自分には木々が揺れる音も木々を揺らす風の音も感触も何も感じない。今になっては目に映る光景をただ眺める事しかできなかった。
木々を眺めていると一瞬上から光が落ちてきた様子が見られる。
慌てて天を見上げるとそこには真っ黒のキャンバスに光り輝く数多の星々とそこを流れる無数の流星の姿があった。
「 」
思わず口からこぼれたその言葉は音にならず誰の元へと届かない。
「あぁ、きれいだね」
ふと誰かのそんな声が聞こえた気がした。
自分には誰かに届ける声はもう無い。
誰かの声を受け取る耳はもう無い。
誰かの思いに答える感情がもう無い。
その筈なのに何故かそんな声が聞こえた様な気がしてしまった。
いつもの勘違い、気のせいだ。
少女はそう考えた。そして同時にこう思う事にした。
"気のせいでも……いいな"
誰の言葉かもう思い出せない。
誰の思いかもう思い出せない。
だけどそこには確かにいるのだ。
今この瞬間だけは少女は一人では無い。
そう感じる事にした。
2人で暫く天を見上げていると再び誰かの声が聞こえた気がした。
「……おかえり」
少女は水滴でにじんだ空を見上げながら答える。
「 」
